
北白川幼稚園園長 山下太郎
私は年長児に蕪村や芭蕉の俳句を教えています。ある年のこと、雪の降り積もった日にAちゃんがたくさん「俳句」を作ってきました。その中に「いやだなあ」で始まる句がありました。次の七文字は「もうすぐ終わる」と続きます。私はここで園児全員の顔を見て尋ねました、「最後の五文字は何だと思う?」と。すると、申し合わせたように、「ようちえん!!」と返事が返ってきたのには驚かされました。屈託のない子どもたちの顔を見ていると、日ごろは人生や将来について難しいことは何も考えていないかに見えますが、この時期の年長児たちの思いはみな一つなのでしょう。幼稚園は楽しい、でも、いつまでも幼稚園児ではいられない。これは、年長児を持つ保護者の思いとも重なるように思われます。卒園式の後、こんな「俳句」をもらったことがあります。「悲しかった 園にさよなら またいくよ」。卒園式までの残りの一日一日を大切に過ごしていきたいと思うこの頃です。

今宮幼稚園 園長 岸 省子
めだかを飼うことになった。昨今のコロナ下で大きな行事は無くなり、縮こまってしまう日々のある日、めだかが数匹やって来た。
水槽を見つめる子どもたちの目の前でめだか達はそれはそれはスイスイ泳ぎ回り、せわしなげにヒレを動かしている。何か影や動きに反応してめだかは瞬間移動をくりかえしていた。もっと近くでみてほしいと「信楽」に出かけ直径50cm程の「めだか鉢」を手に入れた。その中には「川底石、藻、浮草」なども入れてみた。丸い鉢をぐるりと囲みのぞき込み、子どもたちがつぶやく「ちょっとずつみんな違うね」「背中きれいに光ってるよ」「パクッと餌食べてる」「さわっちゃだめ、そおっと見るだけ」丸い鉢をぐるり囲みのぞき込む姿、この風景どこかで見た。ある実業家が大金を出して宇宙船の窓から地球を見ている姿と重なってしまう。夢をかなえ宇宙に出かけ地球への愛を語っている。地球を大切に自分の出来る事をしていこうと。子どもたちは丸い窓の中に繰り広げられる平和なめだかの学校を見つめながら、「みんな仲良くしようね」「きれいなお水にしてあげようね」友だちと思いを共有し、大切なものを守り抜く事を誓っている姿に期待する瞬間です。

八条幼稚園 園長 中浦正音
お誕生日会に、くすのきしげのりさんの「あったかいな」という絵本を読んだ。「いのちって あったかいね」で終わるこの本
が大好きだ。数日後の朝の徒歩通園。手をつなぐAちゃんが「園長先生の手あったかいね」と言い、私が「Aちゃんと手をつなぐともっと暖かくなったよ」と答えた。それを聞いていたBちゃんが「生きているからやでー」。私は身体全体がホカホカになった。しばらく歩きながら、子どもの頃母と雪だるまを作った日の事が思い出された。冷たくなった手に母が手を重ねて暖めてくれた原体験。同時にAちゃんやBちゃんが素敵なお父さんやお母さんに成長して子どもと手をつなぐ日が来るんだろうなぁ、と想像した。今Aちゃんと繋ぐ手と手の間には過去のぬくもりと未来の希望が包まれていた。寒いけれど朝の日の澄んだ光に包まれている、輝く瞬間だった。

光明幼稚園園長 田中 康雄
十一月上旬、預かり保育の帰り道は五時三〇分頃、年少の男の子が「あれ?」とある事に気付きました。「なんでもう夜になってる?」その男の子は、以前はまだまだ外で元気に遊んでいた明るい時間のはずなのに、真っ暗になっている事に気付き、不思議そうに頭をひねりました。「もうすぐ冬やからやな」とはお迎えの父の言葉。「?」「冬は夜が長くなんねん」
「夏は?」「夏はまだ五時半は明るい」「ふーん。年中さんになったら、もう一回夏が来るから、大丈夫やんな」
男の子の不安の入り混じった、自分の知っている知識を自分に言い聞かせるような声の調子がとても印象的でした。短くなる日照時間に気付く感性、夜を怖いと感じる情緒、知識と生活の中での実感の結び付き、そしてその体験を共有する親子の会話。日常の一瞬を切り取った濃密な場に居合わせた幸せを感じられた一日でした。

桃山幼稚園園長 三木 賀子
『新たな出会い』
朝、門の前で年少の子どもが「これなあに?」と一、五㎝ほどの緑の実を持って登園してきました。すぐそこで拾ったとのこと。
「なんだろうね?」と園では不明。私にとっても初めての出会いでした。暫くすると門の周辺に沢山落ち、中からアーモンドのような種が飛び出し、落下の様子に変化がみられました。雨、風の後は繊維のある皮が道路にくっついて大変です。ようやく萱かやの実であることが判明。隣接する御香宮の大木からの季節の便りでした。樹は将棋盤になるほど強く、実は食用になり、油をとって使用することもあることが分かりました。聞いてきた子どもには遅ればせながら正解を伝え、高い樹を一
緒に見上げました。
日々教えることに勤しむ私たちですが、実は知らない事がいっぱいです。新たな知識との出会いで心躍ることは、子ども達の姿や心を見る目を養う源となるのではと感じる出来事でした。

アヴェ・マリア幼稚園園長 松永 昌子
コロナ禍で、園外保育に行く場所も限られる中、きれいに手入れされた広々とした芝生のある場所に行くことが出来ました。
子ども達は、フカフカの芝生の上を走りまわって遊んでいました。一人の男の子が
「こんな所に落とし穴があるよ」と大きな声で教えてくれたので、みんなが周りに集まりました。子ども達の膝ぐらいの深さの穴でした。
すぐにそれは、数年前、近畿地方に大きな被害が出た台風の時に倒れた木の跡と分かりました。その話をするとみんな木の事を思い、しんみりと静かになりました。
すると穴を見つけた子が「僕がその木の代わりに立っててあげよう」と両手を頭の上に挙げて、劇中の木のように立ってくれたのです。皆でその姿に大笑いをしました。
このようにして、ウエットに富んだ優しい心は育っていくんだなあと、嬉しい気持ちになりました。

光華幼稚園園長 西野夕子
梅雨の晴れ間から真夏を思わせる日が続いています。「先生!見て、見て!」と砂場でお山作りをしていた子どもたち。2つある山をつなげようと、道を作ってバケツに汲んだ水を年長組さんが流した瞬間、すぐ隣りで遊んでいた年少組さんが「うわ~!」と声を上げ、にっこり笑顔いっぱいに!一緒になって「ぐにゅぐにゅ」と、水と砂を混ぜ始め、夢中になっていきました。
ちょっぴりお母さんに会いたくなっていた年少組のAちゃんも少しずつ近づいてきて、砂や水を触って、はしゃいで笑顔いっぱいになりました。年長組さんの真似をしたり、教えてもらったり、また一緒に遊ぶ中で知っていくことがあります。異年齢の子どもたちが一緒だから楽しいことがたくさんあります。新型コロナウイルス感染予防の為、いろいろな対策は必要となりますが、子どもたちの「やってみたい!」という「わくわく感」を大切に、夢中になって遊び込める環境作りをしていきたいと思います。

京都幼稚園 松田幸恵
少しずつ園生活に慣れてきた五月。年少組のクラスに入ると、「先生、私、今日給食ぜーんぶ食べたよ。」と、誇らしそうな女児。また別のクラスに入ると「ぼく、着替えができて、ボタンも全部自分でとめられた!」とにこにこ笑顔の男児。この間まで、「食べたくない。」「できない。」と言っていた二人は、そこにはいませんでした。
「食べようね。」「やってみようね。」ではなく、自分で「食べてみたい。」「やってみたい。」そう思った時の子どもたちの進む力の大きさは、びっくりするものがあります。
幼稚園という集団の中で得られる力の大きさも感じます。一つできた自信は、次に踏み出す勇気にもつながるでしょう。自分から表現することが苦手な子もいますが、形は違えど、どの子ももっている好奇心や、やってみたいという意欲を引き出し、支えられるような教師でありたいと思います。
日々の中に、一人ひとりの積み重なっていく成長の瞬間があります。そんな瞬間を一緒に喜び合い、かけがえのない今日を、子どもたちと共に過ごしていきたいと思います。

聖光幼稚園 園長 菊地幸代
園庭の桜の蕾が色づき始めると、「いよいよ新学期だ!」と心が弾みます。そして同時に、「今年の子どもたちとの出会いはどうかな?」と少々の不安も覚えます。
今年の新学期初日も、子どもたちから「進級マジック」を見せてもらいました。ほんの2週間前まで、「ママ〜置いていかないで〜」と泣いていた年少児が、年中に進級したその日から、新しい部屋に向かって颯爽と1人で歩く姿。また、以前は泣いている小さな子どもに声をかけることができなかったのに、「一緒に行ってあげるね、泣かなくていいよ」と部屋まで送ってあげる姿。進級したことが、こんなにも大きな自信を与えるのだと、感じる瞬間です。一つ
大きくなったことを実感しているのだということが、よくわかります。「お姉さんてたーいへん!」と言いながらなんだか嬉しそうな表情の子どもたちを見ていると、まるでマジックにかかったようです。
進級がきっかけで、新しい一歩を踏み出した子どもたちの姿に出会い、成長を楽しみにしているところです。

同志社幼稚園 園長 北川雅章
体操教室が嫌でお母さんの後ろに隠れて登園したA君。環境の変化に敏感で、前回の体操教室に入れなかったことを、何よりA君自身がよく覚えていたのでした。ご家庭としては見学希望ということでしたが、A君の成長をお伝えしたうえで、対応は幼稚園にお任せいただけることになりました。はじめは足が進みませんでしたが、私が近くにいるという約束で部屋の隅っこに入ることができました。それから、少しずつ友だちの中に距離を詰め…。A君の表情はこわばっていました。が、体操教室の先生の視界に入ると…!あっという間に先生の魔法にかかってしまいました。次第に、友だちと一緒に活動に参加できるようになりました。「先生、できた!」という瞬間の、何とも言えない嬉しそうな顔、「ほら見て!」という視線と自信に満ちた瞳、笑顔がみられました。体操教室の終了後、「次はいつ体操があるの?」と、聞いてきた彼の瞳はキラキラしていました。
子どもは、存在そのものが輝いていることも確かですが、同時に、秘めている輝きを引き出すことができるのも私たちの仕事だと、改めて考えさせられました。子ども自身の喜びを、心から喜び認める大人の存在があってこそ、次につながる意欲も生まれるでしょう。
新学期が始まります。与えられた環境、状況の中で、できることを子ども達と共に模索しながら、また「輝く瞬間」にたくさん出会える一年になり
ますようにと願っています。