新連載

【新連載】園でできるジェンダー平等教育~「男の子らしさ」「女の子らしさ」を外してみる~   4 回シリーズ(2)

京都あいこ助産院院長・株式会社PLATICA代表取締役 渡邉安衣子

 「男の子なのに泣かないの!」「女の子が戦いごっこなんてしないのよ!」
 先生方も、こんな言葉を耳にしたことがあるのではないでしょうか。幼稚園の生活の中には、子どもたち自身ではなく、大人の目線がつくり出す「男らしさ」「女らしさ」が入り込んでしまうことがあります。

 私たちは無意識のうちに性別による思い込みを持っています。たとえば「男の子は強い・泣かない」「女の子はやさしい・控えめ」といったイメージです。こうした“ジェンダー” は、生物学的な性別とは別に、社会や文化がつくり出した役割やイメージのことを指します。だからこそ、大人が気づき、学び直すことで、子どもたちがのびのびと「自分らしさ」を育てていける環境をつくることができるのです。

園生活の中を見渡すと、意外なところに「性別の枠」が潜んでいます。
・列をつくるときに「男女」で分けてしまう
・ 持ち物や名札の色を「男の子は青」「女の子は赤」
と決めている
・劇遊びで役を性別ごとに振り分ける

 もちろん効率を考えると便利に思えることもありますが、同時に子どもの自由を狭めてしまう場面にもなり得ます。たとえば男の子がスカートをはいて楽しそうにしているときに「変だよ」「笑われちゃうよ」と言われたら、心は傷ついてしまいますよね。反対に「好きな遊びは誰でもしていいんだよ」と伝えてもらえたら、安心して自分を表現できるはずです。

 調査によれば、性別に違和感を持つ子どもの56.9%が「小学校入学前にすでに感じていた」と答えています(中塚,2017)。「そんなのダメ」と否定され続けると深い傷につながりますが、逆に「好きなことをしていいんだよ」「困ったときは大人に話してね」と伝えることは、その子の心を守る力になります。

 国連教育科学文化機関(ユネスコ)の『国際セクシュアリティ教育ガイダンス』(2018年改訂)でも、ジェンダー平等は包括的性教育の大切な柱のひとつとされています。幼児期から「性別で役割を決めつけない」「多様性を認め合う」ことを伝えることが、子どもの安心や社会での生きやすさにつながるのです。

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実践のヒント
・並び方を工夫:必要でないときは男女で分けな

・配役を工夫:劇遊びの役は、立候補を大切にして決める
・色の固定観念を崩す:色は自由に選べるようにする
・声かけを工夫:「男の子だから泣かない」ではなく「泣いてもいいんだよ、気持ちを大切にしようね」
・自己決定を尊重:「やりたい」「やめたい」と言える場面を増やす
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 保育者にできることは決して特別なことではありません。日常の中で「性別で分ける」習慣を見直し、子どもが自分の好きや気持ちを安心して表現できるように寄り添うこと。それだけで子どもは「自分らしさ」を堂々と大切にできるようになります。先生方の小さな工夫や声かけが、子どもの未来を支える大きな力になるのです。

参考・引用
・封じ込められた子どもその心を聴く〜性同一性障害の生徒に向き合う 中塚幹也著 ふくろう出版
・国際セクシュアリティ教育ガイダンス【改訂版】 ユネスコ編、浅井春夫ら訳 明石書店