新連載

【新連載】子どもの発達を支える  3 回シリーズ(3)

滋賀大学非常勤講師  中東 朋子

 子どもたちと接するとき、どんな対応をしたらいいのだろうか、自分の対応は間違っていないだろうかと迷うことがよくあります。まだまだ知識が足りないからと、子どもたちとのかかわりに積極的になれないこともあるかもしれません。もちろん専門的な知識は大切ですが、まず「共にすごしたい」「相手のことを理解したい」という思いがあることが知識をも超える力を持っていると思います。

 私は、今から30年ほど前、神奈川県にある特別支援教育総合研究所の研修での故・木塚泰弘先生との出会いからこのことを学びました。先生は、高校の時に中途失明されましたが、好奇心とチャレンジ精神で教育者・研究者として歩み続けられた方で、当時、視覚障害研究室の部長をされていました。一緒に研修にしていたのは、ほとんどが盲学校の先生。みなさん、視覚障害のある方の誘導方法もご存じで、ごく自然と接しておられました。私は、誘導の仕方も知らないし、点字も知らない、何もかも知らないので、遠くから眺めているばかりでした。しかし、先生とご一緒する中で、もっともっと先生のお話が聞きたいという思いがあふれ、少しでも先生と時間を共にしたいと思うようになると、思わず「みなさんのような知識はありませんがご一緒したいので、どうしたらいいか教えてください。」と、お願いしていました。先生は、「難しいことは何もないよ。一緒にいたいという思いが大事。」と優しくおっしゃいました。専門的な知識ももちろん大切。でも、「この人と共にいたい」「この子どもたちと一緒にすごしたい」と思う気持ちが第一に大事なのだということに気づきました。

 とはいえ、特に、まだ言葉でのコミュニケーションが取れない子どもたちには、どう対応していいのか戸惑うことも多くあります。そんなときに、手掛かりになるのが、当事者の方のお話や出版物です。例えば、東田直樹さんが書かれた『自閉症の僕が跳びはねる理由』とその心の内が書かれています。また、昨年出版された『自閉症の僕の子供時代「だから毎日幼稚園に通えた」』(PriPri パレットブックス)は、幼稚園時代のエッセイをまとめたものです。自閉症の方がすべて同じ感覚、同じ思いというわけではないのですが、会話が難しい発達障害のあるお子さんの心の内を知る手掛かりになるでしょう。

 東田さんは、言語でのコミュニケーションは難しいのですが、自作の文字盤等を使って自分の心の内を伝えておられます。また、NHK で2014年に放送された「君が僕の息子について教えてくれたこと」という番組では、映像を通して彼の様子やいろいろな思いが伝わってきます。この番組は、2025年11月に「時をかける TV」としても放送され、こちらの方は NHK オンデマンドでも見られます。機会があればぜひ見ていただきたい番組です。『自閉症の僕が跳びはねる理由』が世界20か国で翻訳されたきっかけになった、アイルランドの作家デイビッド・ミッチェルさんとのやり取りも収め
られています。ミッチェルさんは、重度の自閉症の息子さんが何を考えているのかわからず、どう愛していいのかわからずに途方に暮れていた時、この本に出会い「ナオキの言葉をかりて息子が話しかけてくれるのを感じた」という思いになり、この本を翻訳されたそうです。

 ミッチェルさんと東田さんが直接会い、いろいろなお話をしたりされている中で、ミッシェルさんは、最も聞きたかったこととしてこんな質問をされています。

「お父さんとして、どうやって俺の息子を手伝うことができますか?」

 東野さんは、文字盤を使いながら、ミッシェルさんに答えます。

「僕はそのままで十分だと十分だと。お子さんもお父さんのことが大好き。そのままで十分だと思っているはずだからです。おわり」

 こう答えた理由は、「子どもが望んでいるのは親の笑顔だからです。」とも。

 私たちは、「共にすごしたい」「相手のことを理解したい」という思いを大切に、今日も笑顔を忘れずに子どもたちを迎えたいと思います。