新連載

【新連載】「次の100年へ — “生きた植物の博物館”から、幼児教育へひらく扉」  3 回シリーズ(1)

京都府立植物園 園長 戸部 博

 京都府立植物園は、1924年に日本で最初の公立植物園として誕生しました。私たちが掲げる理念は、植物を主役とする “生きた植物の博物館”。開園以来、四季折々の植物を通じて、人々に自然の豊かさと奥深さを伝えてきました。2024年の開園100周年を機に、時代の変化に応じて魅力と機能をさらに高める「100周年未来構想」をもとに、次の100年に向けての歩みを始めています。

 未来構想の柱は、植物園のさらなる魅力向上、教育・学習・研究機能の強化、そして希少植物の保全体制の充実です。絶滅危惧植物栽培温室や高山植物室の整備に加え2024年には観覧温室のリニューアルを実施するとともに京都大学や京都府立大学などとの連携による教育・研究の深化を進めています。こうした取組は、植物園を単なる観光施設ではなく、未来に向けた植物の学びと保全の拠点へと進化させるものです。

 こうした植物園のビジョンは、幼稚園や保育園での探究につながる「自然への入口」を広くひらくことでもあります。園庭の一隅にある草花や落ち葉、道ばたの苔や虫との出合いが、子どもたちの目をひらき、問いを生み、言葉を育てます。植物園では、季節ごとの展示やワークショップ、職員・ボランティアによる解説や観察会などを通じて、子どもたちの発達段階に応じた「自然にふれる学び」を体験していただけます。こうした体験は、子どもたちが自然と向き合い、感性を育む第一歩となります。

 また、2024年には100周年記念事業を通じ、「恐竜時代の植物展」や国際シンポジウムなど、植物の進化や生態、文化との結びつきを多角的に体験できる機会を
設けました。さらに、夜間に植物園を開放する没入型体験「LIGHT CYCLES KYOTO」では、生物多様性をテーマに、光と音でさまざまな植物の世界への理解を促す新しい試みにも取り組みました。こうした体験は、幼児教育にとっても、五感を通じて「植物の不思議」を分かち合うきっかけになります。暗闇に浮かぶ花や葉のシルエット、音と光が織りなす幻想的な空間は、子どもたちにとって自然を感じる特別な体験となります。

 幼児期の学びにおいて大切なのは、身近な自然に「名前を与えること」よりも、まず「気づく力」を育むことだと思っています。普段何気なく通っている道端や河川敷で草花を観察し、名前を知らなくても「この葉はザラザラしている」「この花は甘い匂いがする」と感じることから始まります。葉の形や色づきの変化、茎の手触り、色とりどりの花の香り、種の形や重さ — それらを比べ、語り合い、表現することが探究の土台になります。こうした積み重ねが、子どもたちの「興味が芽生え、学びへと広がる扉」を開いていくのです。