【新連載】「京都から世界へ ― 名木の継承と、希少植物を守るネットワーク」 3 回シリーズ(2)
京都府立植物園 園長 戸部 博
次の100年に向けて、京都府立植物園は「京都から世界の生物多様性保全に貢献する」ことを掲げています。その実践のひとつが、京都を中心とした社寺に残る歴史的樹木の命と物語の未来への継承です。
2024年の開園100周年記念式典では、接ぎ木や組織培養で増殖した京都府内の社寺に伝わる貴重な桜や梅の名木の苗木を記念植樹しました。住友林業との協働事業で新設の「伝承樹の苑(でんしょうじゅのその)」へも順次植栽し、災害や病虫害から文化を守る「分散保存」の仕組みづくりに取り組んでいます。一本の木に宿る歴史や文化を未来へつなぐことは、植物園の使命のひとつであり、名木の苗木増殖を支え、クローン技術の社会実装を通じて保全の裾野を広げたいと考えています。
この取組は、次の100年に向けた長期プロジェクトとして、2025年から本格化しました。将来的には、名木保全で培った技術を、世界の絶滅危惧種にも応用できると考えています。京都から発信する技術が、地球規模の生物多様性保全に寄与する未来を描いています。一方、希少植物の保全では、大学・研究機関や地域との連携が不可欠です。植物園は、京都大学や京都府立大学と協定を結び、絶滅危惧植物の増殖、標本・試料提供、教育プログラムの開発などを進めています。京都大学フィールド科学教育研究センターの研究林と連携し、域外保全や環境教育の実践を重ねることで、
研究の成果と市民教育をつなぐ役割を果たしています。
さらに、京都府の「きょうと生物多様性センター」と 協 働 し、府 内 の 多 様 な 主 体
―自 治 体、企 業、NPO、学校、研究者―
が連携するハブ機能を強化し、希少種保全、外来種防除、標本・情報の収集と共有、人材育成といった、保全のネットワークを生み出しています。拠点は植物園会館内に置かれ、活動の相
談窓口としても機能しています。こうしたネットワークは、地域から世界へ広がる生物多様性保全の基盤となります。
幼稚園教育への接点としては、名木や希少植物のストーリーを「語れる教材」にしていくことが鍵です。
一本の木から見える「地域の歴史」「文化」「科学」を、子どもたちの生活圏と結び直す。例えば、園庭の木と植物園の名木を比べる観察、落ち葉や種の標本づくり、季節の移り変わりの記録などは、探究・表現・共同学習を育む実践になります。植物園の「一本の木から学ぶ」プログラムの思想は、“知識の輸入” ではなく “自分の力で自然から学ぶ” こと。こうした体験が、子どもたちの「生きものと生きる感性」を育てると信じています。